職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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天才じゃない私の役割。

HAZIMENI!

理学療法士である私の職場では年に数十回、1~3年目までが症例報告を行う機会がある。

一般企業にお勤めの方や多職種の方からするとだいぶ違和感を持たれるかもしれないが、この症例報告のための資料作成は業務時間内にできず、さらには残業代も出ない。

医療業界全般に言える、いわゆる「自己研鑽」というくくりにされてしまっている。

そもそも自己研鑽で行わせていることが"当たり前"であることも今後のテーマではあると思うが、今回課題に感じるのは「若者が意見を言わなくなった」ことである。

一昔前と比べ、若者が自発的に意見を言うことが少なくなってきた。それも、大人数で話し合う場面では顕著に。質疑応答で意見を述べるのは大抵役職者や経験年数そこそこの方たちだけである。

資料作成者と同様、この症例報告は業務時間内にやらないと言うのだから、「質問などしてやるか」と思うのも無理もない話ではある。しかし、ストレスを抱えながらも自己研鑽でなんとかまとめてきた発表を、同期や年の近い先輩・後輩が感想すら伝えないというのは実に寂しいものである。

そして、実にもったいない。世代が変わるごとに若者の発想はよりクリエイティブになっているというのに。

天才が生きづらい世の中。

『天才を殺す凡人』という書籍をご存知だろうか。

北野唯我が執筆(2019初版)したビジネスパーソン向けの書籍である。

本書では世のビジネスマンを「天才」「秀才」「凡人」の3タイプに分類し、この関係は縦の優劣ではなく、三角関係…というよりポケモンの御三家、「ほのお」「みず」「くさ」タイプみたいな相性関係になっているのだ。

天才:『創造性』で評価される/ 少ない

秀才:『再現性』で評価される/ 少ない

凡人:『共感性』で評価される/ 大多数

天才は凡人には理解できない発想を持っている。それゆえ、天才は大多数である凡人に理解されず表舞台に出にくくなっている、というのが本書で紹介される現代の社会構造である。

この社会構造に今の若者を当てはめてみよう。

ただでさえクリエイティブな天才たちがいたとしても、その発想を伝えにくい環境ができあがっているのだ。

天才を活かす秀才・凡人に。

私は天才だろうか?

科学的根拠に基づいて行動したり、他者とのコミュニケーションを重視しているため、どちらかというと秀才・凡人に当てはまるかもしれない。逆に、新しい仕組みや考えを持つことは苦手だ。

一方、今の若者は消極的ではあるものの、話してみれば「新しい」と感じる発想を持っている者が多少なりとも存在する。

組織を発展させるべく今後必要になるのは間違いなく『天才』だろう。

天才ではない私は天才にはなり変われない。

天才を活かす方向に舵を切らねばならない。

若者改革Project開始

はい。というわけで、若者改革Project第1段として、症例報告時の質問者サポートを開始しました。

方法

  1. 症例報告事前に、報告者の同期に質問を行うよう伝達(強制ではない)
  2. 質問し難ければ、横で赤茄子が考えを一緒にまとめるようサポート
  3. 実施後に質問の仕方や内容についてフィードバック

実施してみて…

自発的に質問できずサポートは必要でした。しかし、サポート後の質問の仕方・受け答えはかなり丁寧であり、追加質問も行えていました。

質問者に実施後の感想を聞いたところ…

  • 聞いてみようとおもった内容はあった
  • 質問するのはやっぱり怖い
  • 短時間で意見がまとまらない

とこんな感じ。やはり、意見自体は構想できているが、文章化できなかったり恐怖心があったりと思考以外の要素がネックになっているようです。

今後も質問者サポートをしていこうと思う。

自発的に意見が言える若者が増えるように。

不要業務を止めない理由。


はじめに

この業務って、本当に必要?

平社員の感覚ならまだしも、中堅になった今でも感じる時があります。サラリーマンの方なら一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

さて、本日は「不要な業務が消えない」理由について、上司と話した経験も交えて語っていきます。

業務を"廃止する"選択が無い

大抵の場合、新しい業務を始めた時はスタッフの負担になっていないかを調査しますよね。

大っぴらに聞くわけにはいきませんので、アンケート調査を行ったりします。

仮に、業務を行うが非常にストレスであったり、生産性が無いことが明確であったとしましょう。

①この業務は必要だと思いますか Yes/No

②Noだと答えた人の理由を教えてください

このような質問があれば、業務を廃止させることも可能でしょう。

ところが、業務を不要と答えさせる選択肢がアンケートに記載されないのです。

例えば…

①この業務をやってみて良かったことは?

②この業務をやってみて大変だったことは?

③改善案があれば記載下さい

こんな感じのアンケートがされます。代替案は受け入れるが、業務を廃止するという選択肢自体がそもそも用意されていないのです。

私が後輩へアンケートを実施する旨を上司に伝えた際も「不要と思わせるようなアンケートの仕方はしないでね」と注意されました。

なぜ不要な業務を無くすという選択肢を用意しないのでしょうか?

不要な業務が消えない理由

①上司の立場を守るため

上司陣が決めたことを平社員、もとい新人たちが不要と判断し、覆してしまったらどうなるでしょうか。

新人たちは「この人には"無能"だからついていけない」と思ってしまうでしょう。上司陣もこれだけは避けなければなりません。

そのため、アンケートを行っても廃止する方向には仕向けないのです。

実際に、不要と感じた業務を一意見として上司に伝えたところ、「同意見だけど、上の人から続けるよう言われている」と返答をもらったことがあります。なってこっちゃ。

②代表者を決めて責任を持たせるため

人は何かしら役割をもつことで生きがいを見出すことがあります。

職場の役職者の数は限りがあるため、すべての人に特別な役割を与えることは難しいです。

そこで何かしら業務を作り、リーダーを立てることで役割を与えようとしているのです。

また責任のある立場になると「私が抜けたらこの仕事はどうなるのか」と思ってしまい、離職しにくくなるという一面も考えられます。

業務が否になったらどうする?

①立ち止まって考えてみよう

「この業務、不要なのでは?」考えてしまうと、ついつい上司に「止めたほうがいいのでは?」と言ってしまうかもしれません(僕は言いましたけど)。

しかし、一平社員の思考と役職ある大御所たちとでは見据えている先が異なっており、本当はとても重要な業務になっていた可能性もあります。

また、安易に否定すると「こいつは上司の意見をすぐに潰そうとする」と悪い印象を与える可能性があります。

とにかく、一度立ち止まって考えて見ましょう。

「不要そうな業務を続けたがっている理由はなんだろう?」と。

川北義則さんの「20代でやっておきたいこと」の2章「上司をゼッタイ、バカにしてはいけない!」に似たようなことが記載されていました。

20代のうちに読んでおいて本当に良かったです。

②自分なりの楽しみをみつける

不要でもやらなきゃいけないなら楽しく仕事しましょう。

例えば僕の職場では不要な会議がたくさんあります。だらだら話しているだけでまとまらずに終わることもあります。

そんな時に「どのように仕切ったらまとまりある会議になるのか」を模索しながらコメントをして、その日の会議が有意義になったかを記録していくことをやったりしていました。

もともと実験するのは好きでしたし、司会者としてのスキルも高まるし、自分としては楽しみながら働けていたと思います。

③どうしても嫌なら転職も視野に入れる

本ブログのメインは「メンタルヘルス」を守ることです。

考えた結果「ついていけない」ともやもやしたまま仕事をするとはおすすめしません。

どうしても嫌になったら転職しましょう。

といっても同じ規模の職場では同様な場面に再度出くわす危険性があります。

転職する場合は「今よりも小規模」で「若い社員が多い」職場を探してみてください。

友人で何人か小規模で新しい職場に転職した人たちがいますが、揃って「意見が通りやすい」と言います。古いしきたり等無い分、不要なものは不要と判断してくれる可能性があります。

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止めると病めない生活習慣

はじめに

こんにちは。赤茄子です。

ここ2年ちょっとは新型コロナウィルスの影響で外出も出来ず、ストレスからメンタル不調をきたした人も多いのではないでしょうか?

ところが私の場合は逆に健康面・精神面の大幅な改善を達成しました。

多くの場合、「新しいことを始めた」ことでメンタルヘルスの改善を図ることが多いですが、このコロナ禍ではハードルが高いでしょう。

既に成り立っていた生活を見直す(止める)ことでもメンタルヘルスの改善は見込めます。今回はこの2年で私が止めて良かったと思う3つの生活習慣について紹介します。

止めた3つの習慣

赤茄子は"朝食"を止めた

"16時間断食"をご存知でしょうか?

食事を終了してから血中の糖は10時間で枯渇し、16時間でオートファジー(古い細胞を新しいものにかえること)が働くと言われています。

そのため、16時間食事をしない時間を作ればダイエット、糖尿病予防、アンチエイジングになるといいことづくめです。

しかし、朝・昼・夜と3食きっちり食べているこの時代、1回目の食事から次の食事までに10時間も開けられていないのが現実です。

そこで朝ごはんを抜き、12時から昼食を開始~20時までに夕食を終了することで20時~12時の16時間を断食期間としました。

1年継続し、結果として体重69kg⇨54kgと-15kg。肉体年齢は18歳(この体重計あってる?)。高校生までタイムスリップしたらしいです。

赤茄子は"シャンプー"を止めた

「臭くないん?」と聞かれそうですが、妻いわく「安全圏内」

実は1年ほどシャンプーを使わず湯シャン(お湯だけで頭洗う)にしてます。

というのも、30代に近づき、生え際と髪の細さ、くせ毛の強さが気になり始めたからです。

シャンプーを使用し続けると頭皮を守るための油分が必要以上に洗い流されてしまうため、より多くの油分を出すような生体反応が生じるそうです。

油分が出やすくなると油脂が毛穴に詰まって薄毛になりやすくなるのだとか…

浮浪者(といっては失礼ですが)に禿げている人が少ない印象があるので、これは割りと信憑性高いかもと思い実践。

1年継続し、とりあえず生え際維持。髪の毛の太さは若干up?実感が強いのは髪の毛自体の油っぽさがなくなり、くせ毛が目立たなくなったこと

普段はアイロンでストレートに伸ばしていましたが、現在は不要となり自家短縮⇨ストレス減です。

赤茄子は"合わない人間に会うこと"を止めた

これが一番影響が強いかもしれません。

いくらテレワークが普及したからと言って、オンライン上でも合わない人と会うことは精神的なストレスが増大させます。

僕の場合は大学院のゼミメンバーが対象でした。

現場にいない人を嘲笑したり、否定から始める人を優遇していたりと、とにかく居心地の悪い空間でした。

にもかかわらず1ヶ月に2回も集まりがありやがる。

卒業してからも半年は集まっていましたが、徐々にエスケープ。エスケープしている間にも「なぜ来ないんだ?」と連絡がくるため「もう行きません」と教授に直接TEL。

電話が終わった後、まるで1週間の便秘から開放されたかのような瞬間でした。

終わりに

すべての人に当てはまる内容ではなかったと思います。

ここで知ってほしいのは、今の生活を見直してみてほしいということ。

普段当たり前のようにしていること、みんながやってるから自分もやっていること、「これを続けていいのか?」と一回でも疑問に思ったこと。

止めてみることで病めない自分になるかもしれません。

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赤茄子

お皿の下が痛いです…。膝蓋下脂肪体炎と膝痛の関係性について。

本日の疑問

赤茄子です。

膝痛を訴える患者は非常に多いですが、膝前面、特に膝蓋骨の下らへんが痛くなると訴える患者をよく見ます。

1年目の時は「それは脂肪体が原因だよ」と言われ続けていたためか、反射的に「脂肪体が原因」と考え、付近をマッサージしていた記憶があります。

脂肪体がどうなってるのが問題なのか?

それがどうして運動時の疼痛につながっているのか?

わからずにもみほぐしていた自分に喝を入れたいものです…

結局、脂肪体と膝痛には関係があるのでしょうか?

膝蓋下脂肪体の存在と役割

膝蓋下脂肪体は膝関節伸展位では膝蓋腱・脛骨粗面付近(上記図左の茶色の部分)にあります。

この脂肪体は膝関節の屈曲運動が生じると膝蓋腱・脛骨に押されることで上方へ移動し、膝蓋骨の後面に潜り込むように広がります。

そのため、膝関節の屈曲に伴う関節内圧の上昇を抑えるクッションとして働きます。

また、膝蓋下脂肪体は膝関節を構成する組織の中でも最も疼痛を感知する組織1)と言われているため、脂肪体への過剰な圧やストレスを痛みとして感知するセンサーとしても働きます。

膝蓋下脂肪体炎と膝痛

では、脂肪体がどうなると疼痛が生じやすいのか?

結論から言いますと脂肪体が炎症し、線維・肥厚化することで過剰な圧・ストレスを受けやすくなることが原因と考えられます。

また、変形性膝関節症で生じる関節炎が脂肪体に波及することで炎症が生じると考えられています。

線維・肥厚化した脂肪体は変形しにくくなるため、クッションとしての役割を失います。

また膝関節屈曲に伴う膝蓋腱伸長を介達した牽引ストレスや圧迫ストレスを受けやすい状態となります。

何度も申しますが、膝蓋下脂肪体は疼痛を感知するセンサーのため、圧迫ストレス増大に伴い疼痛が生じる…これが膝蓋下脂肪体炎による膝痛出現のメカニズムになります。

Hoffa signで確認してみよう

膝蓋腱を上から圧迫するようにして、脂肪体への圧迫ストレスをかけます。

圧迫により同部位の圧痛を認めれば膝蓋下脂肪体炎になっている可能性があります。

本日のまとめ

  • 膝蓋下脂肪体は関節内圧を調整するクッション的なもの
  • 疼痛を感知するセンサーの役割もある
  • 脂肪体が炎症すると線維・肥厚化し、変形しにくくなる
  • 変性した脂肪体は牽引や圧迫ストレスを受けやすく、疼痛として感知しやすくなる

とりあえず、Hoffa Sighを見てみましょう。

疼痛があるなら脂肪体をもみほぐしてみるのもありなのではないでしょうか。

赤茄子

1) Dye.S, et al:Conscious neurosensory mapping of the internal structures of the human knee without intraarticular anesthesia. Am J Sports Med,26:P773-777,1998.

姿勢変化に必要な機能は?姿勢制御と姿勢筋緊張について。

本日の疑問

赤茄子です。

脳卒中後に全身がだらーんとしている人や、カチコチに固くなっている人をよく見かけませんか?

こういった方は、介助がなければ姿勢を保持することができなかったり、姿勢を変化させることが困難だったりします。

なぜ脳卒中患者は全身がだらーんとしたりカチコチになったりするのでしょうか?

姿勢制御と姿勢筋緊張

上記の疑問を解決するにあたり、姿勢制御姿勢筋緊張について知る必要があります。

姿勢制御

姿勢制御は姿勢の定位安定性の2つから成り立ちます。

姿勢の定位

運動課題に関与する複数の体節間同士の関係、および身体と環境との間の関係を適切に維持する能力と定義されています。

…難しいこと書いてありますね。ちょっと例を出しましょう。

座位姿勢から目の前のりんごにリーチングするとしましょう。

運動課題は「リーチング」になります。

体節間同士の関係…は少しおいておいて、身体と環境との関係は主に視覚・前庭感覚・固有感覚から成り立ちます。

視覚では目標物であるりんごとの距離間を適切に維持するように…

前庭感覚ではリーチに伴う身体の傾きや重力に対して姿勢を維持するように…

固有感覚ではリーチに伴う前足部への荷重に対して姿勢を維持するように…

これらの感覚を元に、姿勢の変化に伴う四肢体節の位置を適切に維持する機能が姿勢の定位と考えられます。

図にするとこんな感じ。

姿勢の安定性

支持基底面と重心(質量中心)の関係で説明するものであり、支持基底面から重心が逸脱しないように制御する能力です。

図にするとこんな感じになります。

この機能はバランス能力とも称されることがあります。

姿勢筋緊張

姿勢筋緊張とは?

姿勢の変化に伴う姿勢の定位と安定性をまとめて姿勢制御と呼ばれます。

姿勢制御が行われる際に、四肢の体節を適切に維持するためには何が必要になるのでしょうか?

不安定な姿勢をとる時、体節もとい関節の位置を維持するためには付着する筋の持続的な緊張が必要になります。

また姿勢の変化に合わせて、筋緊張は高くなったり低くなったりと調整されなければなりません。

例えば体幹筋で見ると下の図のようになります。

このように、姿勢の保持や姿勢変化に必要な筋の緊張を姿勢筋緊張と言います。

姿勢制御に働く内側運動制御系は四肢近位関節・体幹の筋緊張の調整に関わります。

姿勢筋緊張の調整とは?

姿勢制御に関与する内側運動制御系には、促通系抑制系の2つがあります。

本日はメジャーな経路だけご紹介。

《促通系》前庭脊髄路、橋網様体脊髄路

《抑制系》延髄網様体脊髄路

これらの経路の活動の増減によって姿勢筋緊張が調整されます。

脳卒中患者の姿勢筋緊張異常

健常者では適切に姿勢制御が働くと、促通系・抑制系経路の活動のバランスによって姿勢筋緊張が調整され、スムースな運動が遂行されます。

ところが、脳卒中患者では促通系・抑制系活動がアンバランスとなり、姿勢筋緊張が低緊張になったり過緊張になったりします

これらの状態では、姿勢保持自体ができなかったり、姿勢保持できていたとしてもその状態から運動を行うことができなかったりします。

本日のまとめ

  • 姿勢の保持や運動には姿勢制御が必要である
  • 姿勢制御には関節を持続的に安定させる姿勢筋緊張が必要である
  • 姿勢筋緊張は促通系と抑制系のバランスで決まる
  • 脳卒中後は促通系と抑制系がアンバランスになり、低緊張・過緊張が生じる

低緊張・過緊張は脳の障害部位によって分かれそうです。

姿勢筋緊張に関わる脳・神経経路にはどんなものがあるのでしょうか?

赤茄子

杖に頼り過ぎて手が疲れます…疲労に対処する杖の選択とは?

本日の疑問

赤茄子です。

「手が疲れちゃって、もう歩けません」

杖歩行で、こんな発言される患者をたまに見ます。

本来歩行というものは、下肢で身体を支持しながら移動するものであり、手で歩くものではありません。

上肢はあくまで補助と考え、主要に頼るべきではないと考えます(身体機能によってはこの考え限りではありませんが…)

にも関わらず、上肢の負担が高い歩行練習を続けてしまい、下肢は廃用・上肢は疲労でリハビリ進まない…

使っているその杖、本当に適切でしょうか?

T字杖へ荷重量と上腕三頭筋負担

「手が疲れます」のほとんどは上腕三頭筋と考えられます。

なぜなら、T字杖に頼った歩行を行っている方は杖への荷重量が多い(床反力が大きい)にも関わらず、肘関節のモーメントアーム調整がほとんどされないからです。

???

どういうことでしょうか?

関節モーメントとは

関節モーメントとは、関節運動を生じさせる力の大きさのことです。

詳細に説明すると、関節にかかる力(今回は床反力)×モーメントアーム(関節から床反力線までの距離)=関節モーメントになります。

杖に荷重がかかる(床反力を受ける)場合は肘関節を軸に屈曲方向に関節モーメントが働くことになります。

そのままですと肘が曲がって支えになりませんよね。

そのため、屈曲方向への関節モーメントを打ち消す方向に力(今回の場合は上腕三頭筋活動)が関節を一定の位置に留めるために働きます。

荷重量(床反力)と上腕三頭筋活動

以前の記事で、杖への荷重量を体重の10%に維持した時の肘関節角度と上腕三頭筋活動の関係について説明しました。

この記事の内容は、床反力を変化させずモーメントアームを大きくさせることで上腕三頭筋負担が増大するとも解釈できます。

では関節角度は変えず、杖への荷重量が増加した場合はどうなるのでしょうか?

上の図はT字杖への荷重を体重の5%と20%とした時の姿勢の違いを示しています。

床反力が大きくなる(体重の20%の図)と床反力線に身体を近づけることで全身の関節負担を減らそうとしますが、肝心の肘関節はどうでしょうか?

多少モーメントアームが短くなってはいますが、肩関節と比較するとモーメントアームが長く、加えて床反力は増大しているため上腕三頭筋負担の増大が予測されます。

T字杖へ頼った歩行を続けると、上腕三頭筋の筋疲労で長時間歩行できません。

上肢負担を考慮したロフストランド杖のメリット

では、どのような杖を使用すれば上腕三頭筋負担が軽減されるのでしょうか。

ここまでの説明から考えると、荷重量が増えても肘関節のモーメントアームが短くなるような杖が望ましいと考えられます。

そして、その様に設計されているのがロフストランド杖になります。

上記図のように、ロフストランド杖は杖軸に対し、前腕カフ部分が20°程度傾斜するように設計されています。

加えて、前腕は動かない様固定されるため、床反力線が常に肘関節近位を通る(モーメントアームが常に短い)ようになります。

そのため、荷重量が増加しても上腕三頭筋負担は増大しにくくなっています。

本日のまとめ

  • 関節モーメントは杖への荷重量×モーメントアームで決まる
  • 杖使用字は肘関節モーメントが増大すると、上腕三頭筋負担が増大
  • T字杖に頼る歩行では、床反力・モーメントアームともに大きいため、上腕三頭筋負担がより増大
  • ロフストランド杖は肘関節のモーメントアームが短くなる設計のため、荷重量が増えても上腕三頭筋負担が増大しにくい

教科書でも、T字杖は体重の20~30%まで、ロフストランド杖は体重の50%程度カバーできると言われてます。

患者が疲れすぎないようリハビリを進めるためにも、適切な杖の選択を行えるようになりたいものです。

赤茄子

参考文献

小柳磨毅(編)・他:PT・OTのための運動学テキスト 第1版補訂版. 金原出版株式会社. P526-529. 2021.

 

姿勢筋緊張を適切に高めたい…治療に活かす支持基底面と重心高について

本日の疑問

赤茄子です。

以前、小脳性運動失調(体幹失調)で弾性緊縛帯を用いると姿勢動揺が減少する(姿勢筋緊張が高くなる・高める負担が減る)という内容を説明しました。

長期的な効果は不明であり、できたら使わなくても姿勢筋緊張を適切に高めたい…

私含め、このように感じる理学療法士は多いのではないでしょうか。

では、運動失調のように姿勢筋緊張が低下している患者のリハビリをどのように進めたら良いのでしょうか?

姿勢が変化すると必要な姿勢筋緊張は変化する

リハビリの進め方の前に、まず基礎的な話になります。

 

例えば、背臥位で横になっている時に人の体はふらつき転倒することはありません。

そのため、姿勢筋緊張を高める負担は少なくなります。

一方、立位をとっている人は足底で囲まれた狭い支持基底面内に重心を保持しなければ転倒してしまいます。

加えて、立位では支持基底面から重心までの間に複数の関節を跨いでいます(足関節~脊柱)。

複数の関節をグラつかせずに狭い支持基底面内に重心を収めるためには、姿勢筋緊張を適切に高める能力が必要になります。

このように、支持基底面と重心高は姿勢筋緊張に影響を与えていることがわかります。少し深ぼってみましょう…

支持基底面と姿勢筋緊張

上記でも説明しましたが、支持基底面が狭いと安定性が低下します。

というのも、支持基底面が減少すると支持基底面内に重心を収めておける限界の範囲(安定性限界)が低下するからです。

姿勢を保持するためには狭い支持基底面内で安定性限界を可能な限り広げる必要があり、そのためには姿勢筋緊張を高めなければならなくなります。

一方同じ姿勢(例えば立位)でも、支持基底面を広げることで姿勢筋緊張を高める負担は減ります。

例えば立位と"テーブルに上肢を載せた立位"を比較すると、後者の方が安定性限界が広くなるため、姿勢筋緊張を高める負担が減ります。

重心高と姿勢筋緊張

重心高についてですが、これは"だるま”を想像していただければイメージしやすいかと思います。

だるまはどれだけグラつかされても元の姿勢にもどります。

これは支持面に対する重心がかなり低い位置にあるため、位置エネルギー(高い位置から低い位置へ動こうとする力)が低く、重心が移動しにくくなるからです。

例えば、立位を取っている人と屈んでいる人を比較してみましょう。

立位では重心が高くなるため位置エネルギーが高いと考えられます。

この状態では重心が動きやすくなるため、支持基底面内に収めておくために姿勢筋緊張を高める必要が生じます。

一方、屈んだ姿勢では同じ支持基底面でも重心が低くなります。

すると位置エネルギーは小さくなるため重心移動は少なくなり、姿勢筋緊張を高める負担が減少します。

現状機能以上の課題は代償姿勢を助長させる

本来であれば、立位になるほど姿勢筋緊張を高める必要性が出るため、姿勢筋緊張を高めたいのであれば立位練習することになります。

しかし、姿勢筋緊張が低下している患者にまったくできない立位を取らせようとすると、代償姿勢や代償的な姿勢筋緊張の向上が生じる場合があります。

例えば、失調症患者は動揺に対し、ワイドベース姿勢や体幹過伸展のような姿勢をとると言われています。

重心を保持するための姿勢としては正しいかもしれませんが、この姿勢が学習されてしまうとADL動作が行いにくくなったり、腰痛が出現しやすくなったりと他の影響が生じかねます。

ちなみに、代償姿勢が生じておらず、姿勢筋緊張が低下している患者は、(長下肢装具を付けてでも)積極的に立位練習を行ったほうがいいと考えます。

支持基底面・重心高を評価・治療に活かす

姿勢筋緊張の評価に活かす

姿勢を変化させることで姿勢筋緊張が変化することを前述しました。

支持基底面と重心高を考慮した姿勢の変化に対し、保持できているかを確認することは姿勢筋緊張の評価に繋がります。

実際、下記の図のように姿勢を変化させ、その姿勢を保持できるかを確認することが評価として用いられています。

武井麻子, 浅賀忠義, 佐藤清子・他: 小脳性運動失調症の治療効果判定尺度. 神経治療学, 9: P263-269, 1992.から引用

姿勢筋緊張の治療に活かす

上記の評価の図はそのまま治療にも使えます。

現状可能な姿勢と可能じゃない姿勢を確認し、現状の機能より少し高い難易度の課題を"支持基底面と重心高を調整"しながら段階的に難易度を高めることがそのまま治療に繋がると考えられます。

本日のまとめ

  • 支持基底面が高く、重心高が高いほど姿勢筋緊張を高める必要が生じる
  • 現状機能以上の課題を無理やり行うと代償姿勢を学習し、ADLや疼痛に悪影響が生じる
  • 支持基底面・重心高を調整し、少しむずかしい程度の課題から段階的に練習していく必要がある

赤茄子